完成:1914~1964年
設計:横河工務所
場所:東京都中央区
様式建築を取り入れた例として、百貨店建築があります。新時代の商業施設として、人々の注目を集めるとともに自らの格式を主張すべく、装飾主義的で権威的な様式建築が採用されました。ここでは、その中でも日本初の百貨店である三越本店を紹介します。
正面出入口周辺には彫刻様の意匠や金色のきらびやかな装飾が施され、来客に格調と共に期待感を感じさせます。
横にある出入口にも注目。細い通りに面し人通りは少ないですが、隣に建つ三井本館に向かい合うようにこちらも立派に設えられています(元々三越は三井なので連続性を考慮したのだと思われます)。
一方で、入口周り以外は装飾は控えめで、質実剛健とした外観です。買物客は出入口以外の外壁にはそこまで目を向けないという割り切りもあるのかもしれません。
店内に入ってから建物の外見が見える唯一のポイントは屋上。庭園やテラスとして開放されていますが、その片隅に塔屋が座しています。こちらは様式建築らしい装飾性に富んだ見た目。
さて、店内の売り場については、現役の店舗として改修が繰り返されていることもあり、鑑賞的に価値のありそうな部分はあまりありません(三越劇場や画廊のある6階フロアはクラシカルな雰囲気もありますが、基本的に撮影禁止)。ただ、この建築の最大の魅力はちゃんと内部にあります。建物中央部に設けられた大吹き抜けです。
1階から5階までぶち抜く壮大な吹き抜け空間は、「豪華絢爛」と言っても過言ではない空間が広がっています。三越本店のシンボルである天女(まごころ)像と、それを抱く大理石の開放型階段に目が向きますが、色ガラスに彩られたアーチ型の天窓も見逃せません。一方でこの空間には彫刻的装飾は見られず、ややシンプル過ぎる気もしますが、像を引き立たせつつ品の良さも感じさせます。
また、この吹き抜けのもう一つの大きな特徴として、パイプオルガンが備え付けられていることがあります。毎週末決まった時間にはミニコンサートが開かれており、誰でもその柔らかな音色を味わうことができます。
かつての百貨店は屋上に遊園地や動物園があったりと、単なる買物先ではないレジャーランドの様相がありました(何なら日本最初のディズニーランドは三越の屋上だし)。壮麗な吹き抜けで貴重なパイプオルガンを演奏しているのは、特別食堂や三越劇場と合わせて、戦前から続く優雅な百貨店文化を今に残す矜持を感じさせます。