完成:1968~1986年
設計:大高正人
場所:香川県坂出市
前川國男の系譜にある大高正人は、モダニズムが志向した「都市」の実現に最も近づいた建築家の一人です。行政による大型事業に多く携わった大高の代表作は2つ、1つは広島市の基町高層アパート、もう1つがこの坂出人工土地です。空中に人工地盤を築き、その上に住宅を建てる。人工地盤と住宅は構造上切り離されていて、建て替えることも可能。黒川紀章らとともにメタボリズム(建築上の新陳代謝)を目指した作品の一つでもあります。
人工地盤と言ってもただの一枚板ではなく、様々なレベルの「地面」が互い違いに何層にも築かれ、重なり合わさり、それらが階段やスロープで結ばれているという非常に複雑な構造となっています。モダニズムでは人間中心主義(人間工学的に合理的な寸法、動線)が据えられますが、本建築で大高はそこに都市としての複雑性を幾何学的に付加しようとしていました。花壇や樹木も意図的に配されています。
モダニズムの人間中心主義には明確な失敗がありました。それは、人間というものを合理的に規定し過ぎてしまったことです。人間は必ずしも合理的に生活しておらず、したがって生活の場には「余地」や「あそび」が必要ですが、それを考慮できていませんでした(あるいは、メタボリズム思想における建て替えがその「余地」だったのかもしれませんが、大掛かり過ぎて実現しませんでした)。
坂出人工土地では、ハードによって規定された都市を、住人たちが改造して「余地」をつくりだしている様子があります。花壇は庭のように思い思いの花が植えられたり、場所によっては家庭菜園に使われていたり、DIY的に仕切りを増設したり、植木鉢が通路に置かれていたり。こうした真に人間的なカオスさが生み出されていることが、坂出人工土地の二次的な魅力であると感じます。同時に、都市やまちにおける現在でも通じる示唆も見出されます。
1階(地上)には商店街、駐車場、道路が位置しています。立体道路制度の無い時代に道路の直上に住宅を建てるというのを法規的にどうクリアしたのかは謎です。道路に接続する車道スロープが人工地盤の上にアプローチしており、これによって人工地盤上に車を乗り入れることができます(前掲した写真にも人工地盤上に車が駐められているのが写っています)。
坂出人工土地は建設時、コンクリートに海砂が不適切に使用されてしまったため、塩害による老朽化が進行しています。併設の市民ホールが改修のうえ使用再開されているので当面は残ると思われますが、興味のある方はお早めにどうぞ。