九段会館テラス
(旧軍人会館)
(旧軍人会館)
完成:1934年/2022年
設計:川元良一/鹿島・梓設計JV
場所:東京都千代田区
この「建築めぐりのページ」を制作するにあたって、敢えて見に行った建築がこの九段会館テラスです。その理由は2つ。1つは様式建築の中で帝冠様式を紹介したかったこと、もう1つは1個くらいはファサード保存の事例を紹介したかったことです。
帝冠様式というのは、西洋建築を基本としながら「帝冠」の名の通り日本建築風の屋根を載せた様式のこと。日本の近代化が進んでくると、ナショナリズムの観点から西洋建築の模倣に終始する状況を問題視する向きが生まれ、西洋建築の“上”に日本的な屋根を載せた国威発揚的な和洋折衷の帝冠様式が考案されました。軍施設として建てられた本建築を含め、公共建築でいくつか採用例があります。擬洋風建築とは別のアプローチで似たようなつくりに帰結しているのが面白いところ。
日本風の屋根とはすなわち瓦屋根ですが、よく見ると変わった様子です。近代建築として旧態依然の瓦屋根をそのまま用いるのではなく、意匠と構造を工夫したことが見て取れます。瓦にあたる部材は抽薬を用いてツヤと表情を持たせてあり、日本建築由来の各部の意匠は幾何学的に翻案された装飾部材となっています。屋根の鯱(?)に至ってはロボットみたいになっています。この辺りの幾何学的意匠は同時期のライト作品にも通じるものを感じます。
保存部分の内部も洋風となっています。1930年代という時代のためか、装飾的ではありつつも過剰な意匠を避け幾何学的な紋様を取り入れたアールデコ様式の潮流を受けているようです。この「控えめで幾何学的なアールデコ様式」のおかげで、先述した屋根周りの意匠との親和性を確保できています。
さて、この建築のもう一つの特徴として、ファサード保存であることが挙げられます。歴史的建築物を外縁部だけ残し、内側は解体して高層棟を建てて延床面積を確保する再開発手法です。
賛否両論ある手法ですが、九段会館テラスについては他とは少し違った事情があります。元の九段会館は東日本大震災で大ホールの天井が崩落し、痛ましいことに2名の死者が出ています。その後、無事だった部分は免震化して残しつつ、最新鋭の高層建物に建て替えた、という経緯があります。そのため、保存部分は外観だけでなく内部や機能も残されているというわけです。
オフィスビルである高層棟は、外観は品の良さを確保しつつ保存部分に対して“影を薄く”していますが、内部はむしろ保存部分の雰囲気に合わせた暖色系でクラシカルな意匠を多用して連続性を持たせています。その上で内堀に面したテラスを設けたり、ガラス面を展開しつつ天井に水面を反射させたりと、現代的な価値も加えています。「建築」としての鑑賞性はさしてありませんが、現代の「建設」の矜持を感じる優れた設計が見られます。